大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和52年(ワ)9693号 判決

原告(反訴被告)

株式会社小川眼鏡店

右代表者

小川智代吉

右訴訟代理人

藤原寛治

小池健治

被告(反訴原告)

富士ビル開発株式会社

右代表者

浅井忠良

右訴訟代理人

小林宏也

本多藤男

主文

一  原被告間において、別紙物件目録(二)記載の建物部分につき原告が賃貸借の期間の定めのない賃借権を有することを確認する。

二  原被告間において、右賃借権に係る賃貸借関係における賃料及び共同経費の額は昭和五二年七日一日以降賃料一か月金一五万四七六六円、共同経費一か月金四万五二三二円であることを確認する。

三  被告は原告に対し金一九五五万一二一三円及びこれに対する昭和五二年六月二二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  反訴原告の反訴各請求を棄却する。

六  本訴及び反訴の訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

七  第三項に限り仮に執行することができる。

事実

一  当事者双方の申立

原告(反訴被告、以下単に原告という)代理人は、次の判決並びにその(三)項につき仮執行の宣言を求めた。

(一)  主文第一項同旨

(二)  原被告間において、本件賃貸借関係における賃料及び共同経費の額は昭和五二年七月一日以降次のとおりであることを確認する。

1  (主位的請求)

昭和五二年七月一日以降昭和五三年一〇月三一日まで賃料一か月金一五万四七六六円、共同経費一か月金四万五二三二円。

昭和五三年一一月一日以降賃料一か月金七万七三八三円、共同経費一か月金二万二六一六円。

2  (右主位的請求のうち昭和五三年一一月一日以降の賃料、共同経費の減額そのものが認容されない場合の予備的請求)

昭和五二年七月一日以降昭和五五年二月二九日まで賃料一か月金一五万四七六六円、共同経費一か月金四万五二三二円。

昭和五五年三月一日以降賃料一か月金七万七三八三円、共同経費一か月金二万二六一六円。

(三)  被告は原告に対し金一九六八万三二四六円及びこれに対する昭和五二年六月二二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(四)  主文第五、六項同旨

被告(反訴原告、以下単に被告という)代理人は、次の判決並びにその(三)、(四)項につき仮執行の宣言を求めた。

(一)  原告の各請求を棄却する。

(二)  反訴原被告間において別紙物件目録(二)記載の建物部分につき反訴被告の賃借権は存在しないことを確認する。

(三)  反訴被告(本訴原告)は反訴原告(本訴被告)に対し、前項の建物部分を明渡し、かつ、昭和四九年八月三日以降明渡済みに至るまで一か月金七七万三八四〇円の割合による金員を支払え

(四)  (予備的請求)

反訴被告は反訴原告に対し、右建物部分を、反訴原告より金二〇〇〇万円の支払を受けるのと引き換えに、明渡せ。

(五)  本訴及び反訴の訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。〈以下、事実省略〉

理由

一原告主張(一)ないし(五)項、(七)項の各事実、同(八)項中の被告がエレベーター、エスカレーター等昇降機の一部運転停止をし一部賃借人らが原告主張の仮処分命令を得たこと及びその執行につき間接強制の決定がなされたこと、原告が昭和五四年六月一日以降本件店舗での営業を休止していること、原告主張(二二)項の事実、原告が昭和五〇年一〇月分以降の賃料の弁済供託を中止したこと、以上の各事実は当事者間に争いがなく、原告主張(九)項の事実は、賃借人退去の理由を除き、明らかに被告において争わないものと認められるから自白したものとみなす。

二〈証拠〉を総合すると、次の各事実を認めることができ〈る。〉

ショッピングセンタービルとしての本件建物の開業は、昭和四五年一一月一日約八八店舗の賃借人による小売店舗を擁して発足したが、これに先立ち、被告は各賃借人と個別に契約を締結した。

被告は、予め保証金、敷金、賃料等賃貸条件の基準を設定したうえ、出店者を募集したが、右基準が経済的に他の同種賃貸店舗の賃貸条件と比べて出店者にとつて相当負担の大きいものであつたため、出店者との契約交渉は借手市場の状況となり大多数は右基準を大幅に下回り、特に二、三階全部を借り切つて出店した(銀座)三愛をはじめとして被告が誘致を必要とした有名ブランドの大型店については、多くは保証金の預託を受けることなく、中には敷金すら受領せずに賃貸せざるを得なかつた。

原告は、阿佐谷南に本店があるほか、本件契約と前後して契約交渉し阿佐谷駅に近い西友ストア内の店舗を賃借していたが、他人の紹介により被告と交渉の結果出店した本件店舗の契約賃貸条件も被告の前記設定基準を相当に下回るものであつた。しかし原告は格別被告と縁故関係があつたわけでもなく、保証金二〇〇〇万円、敷金三〇〇万円を差入れるなど争いのない賃貸条件による本件賃貸借契約の内容は、正常の契約交渉により合意されたもので、特に原告に対する恩恵的あるいは救済的な好条件であつたわけでもなく、また暫定的なものとしてとりきめられたものでもなかつたし、前記西友ストアとの契約条件よりも原告にとつてはるかに経済的負担の大きいものであつた。

原告を含む各テナントと被告との店舗賃貸借は、ショッピングセンターへの出店契約として、ビル全体として飲食店を含む多数小売店舗を充足収容し多数客の来集を予定し、本件建物に備えられている全館冷暖房等空調設備、エレベーター(客用三基、従業員及び貨物用一基)、エスカレーター(一六基)、カーリフト等昇降機設備、駐車場設備や照明その他の諸設備を含むビル全体の管理運営を被告において適切に実行することを前提として契約されているものである。

本件建物は、国鉄中央線及び京王井の頭線の各吉祥寺駅の接点にあり後者のターミナルビルの形態をとりショッピングビルとしての立地条件に恵まれていたにもかかわらず、鉄道乗降客の誘引力の面で設計上の難点があつて機能的陳腐化の著しい建物構造で、しかも発展性の面で国鉄北口より劣る南口に位置することもあつて、殆んどの店舗は開業当初から経営が苦しく思うように営業成績が向上しなかつた。しかし各店舗の営業努力により売上げは逐年上昇し、原告の場合、武蔵境にある日赤武蔵野病院眼科の指定店であつたこと及び通例三、四年ごとに客が買い替えをする眼鏡の小売を主とする営業の性質上、比較的順調に売上げが伸び、開業三周年の昭和四八年秋にはようやく採算に乗る営業状態となつてきた。

被告は、本件建物によるビル営業の成績は開業当初を除き利益を上げていたけれども、前記の賃貸借契約の一般的状況のため保証金、敷金の収入が予定より大幅に下回り、本件建物の建設費や他の営業である不動産取引における土地購入費の調達に伴う多額の負債の利息がかさみ、全体として毎年の決算結果は欠損状態を続けていた。

そこで被告は、本件建物におけるショッピングセンターの用途を廃止して別の用途に供することを計画し(被告はこれを再開発の計画と称し、その具体的内容を明らかにしようとしないが、本件建物の四階から七階までを用い大規模な場外馬券売場を開設することを計画していて武蔵野市及び住民の反対に遭つている事実がある)、全賃借人との契約上の賃貸期間が満了して期間の定めのない賃貸借となつたのちの昭和四八年一二月末頃、賃借人を退去させることを目的として、全賃借人に対しとうてい受け容れ難い高額の保証金、敷金、賃料等の増額を内容とする契約の更改要求を突きつけたうえ、昭和四九年一月二九日に発した内容証明郵便をもつて右更改に同意しないならば賃貸借契約を解約する旨を通告した。

右更改要求において被告が増額の理由としたものは、諸物価高騰によるビル管理費用負担の増加というものであり、のちにビル建設のための資金負担を追加したが、いずれもその具体的内容につき被告から賃借人らに説明するところはなかつた。

右解約申入れは、賃借人が被告の要求どおりの内容の更改契約をすることの解除条件を付するものであるが、もとより、被告は右更改にかかる賃貸条件の要求を一歩も譲る気はなく、賃借人らが相談のうえ代表者を立てて交渉しようとしたのに対し、被告は賃借人ら共同の交渉をも拒絶し、解約申入期間内における賃貸条件改訂による賃貸借継続の交渉はすべて不調に終つた。

被告の原告に対する契約更改要求の内容は、保証金は従前の二〇〇〇万円に五六三二万九〇〇〇円を、敷金は従前の三〇〇万円に五一四万一七六〇円をそれぞれ追加し、賃料及び共同経費は従前の一か月計五〇万円を八四万八一〇〇円に増額するというものであり、もともと保証金の増額を賃借人に要求しうる法的根拠はないのみならず、保証金、敷金とも追加要求の額は非常識な高額であり、賃料額ももともと比隣の相当賃料額よりはるかに高額のものをさらに増額するものであるため、原告は、被告の要求をとうてい受け容れることができず、保証金及び敷金の増額は拒絶し、賃料及び共同経費の多少の増額は協議のうえ認めることとしてその趣旨を回答したが、被告の前記の態度からして妥協の成立する余地はなく、そのまま六か月後の昭和四九年八月二日を経過した。

同年八月に入り、全店舗について解約申入期間が経過するや、被告は原告を含む賃借人らに対し、解約予告期間が満了し賃貸借が終了したので賃料等の受領を拒絶し近く退去要求をする旨及びビル管理体制を日を追つて縮少し不完全なものにする旨を通告し、冷房及び昇降機の間引き運転を実施し、また、一方的に従来毎月一回の休館日を週一回と変更し毎日の営業時間を短縮し開館時刻の繰り下げと閉館時刻の繰り上げを行うほか駐車場の優待使用制及び夜間収納金庫を廃止するなどサービスの中止をする旨通告し、これらの措置を実施した。

これに対し、地階店舗の賃借人らの申請により被告の右措置(サービス中止を除く)の禁止を命ずる仮処分が発せられたが、被告は休館日及び営業時間に関する措置の実施を一時延期しただけで、間接強制の決定にもかかわらず仮処分の命令に従わず、結局昭和五〇年初め以降は冷暖房は一切停止し、エスカレーターの運転は全機停止して閉鎖し、客用エレベーターは一基を除き運転を停止した。そのため本件建物内店舗の営業環境は極度に悪化し、被告の意図したとおり、個別に被告と解約して退去する賃借人が相次ぎ、昭和五〇年一二月に二、三階全部の賃借人三愛が退去したのち、被告はビル出入口の一部を閉鎖し、昭和五一年中に地上階の有名店大型店は七階の東京堂書店を除きすべて退去し十数店を残すのみの状態となり、ショッピングセンターとしての機能は失われた。

その後も退店する賃借人が続き昭和五二年六月三日原告の本訴提起当時において残留する店舗は、地上階では、七階に東京堂書店(後に退店)、五階にマヤ片岡美容室の各一店のみ、四階に原告を含め四店(原告以外の三店は殆んど休業状態)となり、地下階は、本件建物東側公道下部分に位置し他の部分及び地上階とは区分されて事情の異る四店のみが被告と和解して営業を続けている状態となり、被告は全部退店の階を閉鎖し、残留店のある階も照明を最少限度までに減じ、来客が原告の本件店舗がある四階に至るためには一階(その出入口も北東側と西側以外は閉鎖)からの北東隅の階段又は一階奥にあるエレベーター一基を利用するほかはない状況となり、ビル全体が休業中のような外観を呈するに至つた。

この劣悪な営業環境を克服するため、五階マヤ片岡美容室では、昭和五一年一月に専用のガスストーブを店内に設置すべく被告に対しその設置使用妨害を禁止する仮処分を得、さらに同年六月二四日冷房機の設置妨害禁止の仮処分を得たが、被告従業員の実力妨害に遭い、後者については執行官の妨害排除執行が警察官の援助のもとになされたこともあり、原告は、冬期、夏期には外部の喫茶店に客を待たせるなどし、夏期には扇風機を用い、冬期には昭和五二年二月に仮処分決定を得てガスストーブを店内に設置し防衛策を講じてきた。

しかし、被告が冷房や昇降機の間引き運転を開始した昭和四九年八月以降、原告の本件店舗における売上げは、月により変動はあるが確実に下降し続け、右間引き運転開始直前の昭和四八年八月から昭和四九年七月までの一年間の売上高が月平均二三七万二一二七円(総額二八四六万五五二五円)であつたのに対し、同年八月から昭和五二年四月までの三三か月間の売上高は月平均一三八万四六九二円(総額四五六九万四八四三円)に落ち込み、来客数も前者の期間中は月平均約二四八名だつたのに対し後者の期間中は月平均約一〇三名に減少し、昭和五二年五月以降昭和五三年九月までの期間は来客数月平均約二七名、売上額月平均五二万円弱にまで低落した。

その後も、さらに本件店舗での売上げは低落が甚しく、昭和五四年五月には一〇数万円になつたので原告は営業継続に耐えられなくなり同年六月一日から本件店舗での営業を休止するのやむなきに至つた。

原告は、もと本件店舗に四名の店員を配置していたが、来客数が減少して右人員に相当する仕事がなくなつたのに解雇するわけにもゆかず、内二名の人員を阿佐谷南の本店に移し、残る二名も労働環境が劣悪のため本店から交替で派遣する方法をとるようになつた。

原告の営業においては、本店、西友ストア店と本件店舗を合せた三店で、昭和四六年四月以降昭和五一年三月まで毎決算年度の売上高総利益率(荒利益率)はいずれも六〇パーセントを越え、同年四月から昭和五二年三月までの年度のそれは60.8パーセント、同年四月から昭和五三年三月までの年度のそれは59.9パーセントである。

原被告間の本件賃貸借契約では、賃料は毎月分を翌月一〇日払とされていたが、実際には毎月末日付で被告から納期を翌月二〇日とする請求書がママ発行して請求されていたところ、原告は、従来二、三か月宛遅延して支払うのが常であつたが、昭和四九年四月分から同年七月分までは毎月分を翌月末日までに支払つた。しかし、同年三年分以前の支払遅延についても、同年四月分以降の毎回一〇日前後の支払遅延についても、被告から原告に抗議や問責がなされたことはなかつた。そして同年八月分からは前記解約申入れを理由として受領拒絶がなされ供託されるに至つた。

三以上の事実によれば、被告主張の解約申入れには正当の事由があるとは認めることができない。被告は自己使用の必要があると主張するが、その具体的内容についてなんら主張するところはないし、またこれを認めることのできる証拠はなく、被告主張の会社経営状況の理由は、自己の責に帰すべき経営上の失敗を責任のない賃借人に転嫁しようとするものであつて解約の正当事由とすることはできず、解約申入期間経過後における大多数のテナント撤退によるショッピングビル機能の喪失も、被告において契約上の義務に違背して冷暖房、昇降機の停止をするなど管理を怠つて故意に作出した状態であつて解約の正当事由とすることはできない。供託中止の点も、被告の賃料等受領拒絶後は、被告において受領遅滞の状態にあるもので、原告が供託しないからといつて、賃料等債務の遅滞があるとはいえないことは当然である。

したがつて、本件賃貸借は解約されることなく期間の定めのない賃貸借として存続し、原告は本件店舗につき賃借権を有するものであり、被告の反訴予備的請求に係る明渡移転料金二〇〇〇万円の提供も、これにより補強されるべき正当の事由は全く存在しないのであるから、これにより解約の効果を生じさせるに由なく、被告は明渡しを請求することができないものである。

四前示の昭和四九年八月以降の被告の本件建物管理上の行為は、原告の賃借権行使に対する悪質で露骨な妨害行為で賃貸借契約(出店契約)上の債務不履行というべきであり、これにより原告は、右債務不履行の開始された昭和四九年八月から原告請求にかかる昭和五二年四月までの三三か月間に、右期間内の月平均売上額一三八万四六九二円とその直前一年間の月平均売上額二三七万二一二七円との差額九八万四三五円の三三か月分計金三二五八万五三五五円の収受し得べかりし売上金を得ることができなかつたものであり、少くともその六割に当たる金一九五五万一二一三円の荒利益額相当の得べかりし利益を失つたものということができる。

したがつて、被告は原告に対し右逸失利益額相当の損害賠償をなすべき義務がある。

五前示の本件店舗が属する本件建物状況の変化は、被告の賃貸借契約上の債務不履行によるものであるが、同時に、これにより従前の賃料が比隣の建物賃料に比較して不相当となつたときは借家人たる原告において賃料減額を請求できるものである。

前掲各証拠によれば、本件建物は原告の本訴提起による賃料減額請求当時すでにショッピングビルとしての機能阻害は甚しく、これに応じて店舗使用の対価である賃料及び実質的に賃料の一部をなす共同経費の額は減額されて然るべき状況となつていたものであるところ、近隣地域における賃貸借事例を個別的要因により修正して得られる機能阻害のない場合の比準賃料(月額実質賃料)の相当額は一平方米当り月額二〇五〇円で、前示機能阻害に伴う店舗使用収益上の不利益により三割を減じるのを相当とし一平方米当り月額一四三五円が本件店舗の比準賃料相当額と認められ、一方従前の当事者合意による賃料額は一平方米当り月額三八三二円で契約締結時すでに昭和五二年七月時の前記正常の場合の比準賃料相当額二〇五〇円をはるかに上回るものであつて、ようやく店舗営業が採算に乗つてきたにすぎない当時の被告の解約申入れについて解除条件とされた賃料増額請求はそれ自体不相当であつて効果を生じなかつたものであるから、原告の減額請求時の従前の賃料額は一平方米当り月額三八三二円のままであり、この約定賃料額を約定時から物価指数によりスライドして昭和五二年七月一日当時に当てはめると一平方米当り月額六七六七円となり前記機能阻害を考慮してその二割に相当する一平方米当り月額一三五三円が物価スライド方式による具体的な賃貸借の対価としての相当賃料額と認められ、右比準賃料による相当額一四三五円とスライド賃料による相当額一三五三円の中間値を採り一平方米当り月額一三九二円(専用面積100.97平方米で月額一四万〇五五〇円)をもつて減額請求当時の正当な賃料額とするのが相当であり、また、共同経費については、契約による一平方米当り月額八〇〇円を物価上昇にスライドすると昭和五二年七月一日当時においては一平方米当り月額一八八〇円となるところ前示の甚しい機能阻害による賃借人の不利益に鑑み、原告が負担すべき金額はその二割に当たる一平方米当り月額三七六円とし専用面積100.97平方米により計算するのが相当であるから、総額一か月金三万七九六四円が正当の共同経費額と認められる。

そして、原告の減額請求は賃料及び共同経費の両者について右各正当の金額を上回るものであるから、右減額請求の結果、昭和五二年七月一日以降請求どおりの賃料一か月金一五万四七六六円、共同経費一か月金四万五二三二円にそれぞれ減額の効果を生じたものである。

原告の第二次減額請求は、昭和五三年一一月一日以降(主位的請求)又は昭和五五年三月一日以降における再減額の請求であるところ、前者は前記第一次減額請求による賃料、共同経費額が変更されてから一年四か月後の請求であり、その期間内及びその後においても本件建物の管理状況に格別の変更がなされたことを認めるに足りる証拠はなく、ただ来客数の著しい減少により売上額もまた逐次減少し遂に本件店舗における営業に耐えなくなり賃借人原告は昭和五四年六月一日以降休業のやむなきに至つているものであり、右は被告の故意による管理懈怠の債務不履行による予想された結果であるから、原告においてすでに昭和五四年六月一日以前から双務契約たる本件賃貸借契約上の賃料及び共同経費の支払義務を免れている状態にあるにすぎず、将来被告が再び義務の履行を回復し原告においても支払義務を負担するに至つた場合をも想定すれば、原告請求の再度の減額は相当でない。

六よつて、原告の本訴請求中、本件店舗について原告が賃借権を有すること及びその賃貸借法律関係における賃料及び共同経費の額が原告主張の第一次減額請求による金額であることの各確認、並びに前認定の損害金一九五五万一二一三円及びこれに対する本件訴状送達の翌日たる昭和五二年六月二二日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める各請求の限度において正当として認容すべく、原告その余の請求及び被告の反訴各請求(予備的請求を含む)を失当として棄却すべきものとし、民訴法八九条、九二条但書、一九六条に則り、主文のとおり判決する。

(渡辺惺)

物件目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例